わたしは土方十四郎という男が、もしかしたら大好きで大好きでたまらないのかもしれない。









「で、総悟になんの用事だ」
「なんでそこまで、土方さんに言われなきゃいけないんだ」
「・・・偉そうな口叩きやがって。総悟はウチの部下だ。俺に通せない話でもあるってのか」
「あれ、総悟の方が下なんだっけ?」
「よし、たたっ斬ってやる、そこに直れ」
「土方さんが言うと冗談に聞こえないのよ!」






 当たり前だ、冗談じゃねえ、と土方さんは剣の握りを確かめた。ほんと、冗談に見えない。
 わたしが嫌そうな顔をすると「冗談に決まってるだろ」と頭をぺし、とはたいた。こういうところが、なんというか、
どうにも。





 総悟に用事があるわけじゃない。というか、総悟に用事があるとかこつけて土方さんに会いたいからだ。
 乙女か、恋か、うつつを抜かしてるのか。否定できない。柄でもない、わかってる。
 それでも、わたしは、土方さんにできるなら毎日、いつでも、どこでも会いたいと思う。そんな気持ちを少し、
ほんの少し理解してくれるのが総悟だ。





 それでも総悟には「止めといた方が無難だぜ」と言われている。
 そりゃあね、わたしもわかるけど。そう返すと、総悟は口の端で笑って「なんにもわかっちゃいねえよ」と言う。
 うん、それもわかってるけど。





「そんなに、総悟が好きなのか」
 ほらほら、ね。






 なんで、わたしのこのこころを理解してくれるのが、総悟なんだろう。なんで、目の前のこの人じゃないんだ。
 それだけで胸は十二分に苦しくなる。溢れる。溺れる。その先にいるのは、土方さんだ。
 目の前のこの人が、愛しいこの人が、傍にいて、わたしのことをわかってくれればいいのに。






 (ああ、泣くな 泣くな。ここで泣いたら、負けだ)






 真選組の宿舎の縁側は、風がよく通る。わたしは体育座りをしてうずくまる。そんなわたしに、心配そうに
土方さんは声をかける。耳に残る声に、わたしはまた好きだと思った。わたしのものにならないかなあ、と。

 




 なぜ、この人はこんな勘違いをするんだ。なんで総悟だと思うんだ。なんで自分だとは思わないんだ。
 わたしはあんたが好きだ。だいすきだ。心の底から、大好きだ。柄でもない、上等だ。
 涙を飲み込め。気持ちは吐き出せ。思いは空回りする。そんなものか、そんなものだ。





 わたしは土方十四郎という男を、人間を、真選組の副長を、大好きでたまらない。
 だけど、ちょっとはわたしの気持ちに、この思いに気付いてくれたっていいんじゃないかと思った。
 自分で告げることのできないわたしを笑え。情けないって嘲ればいい。それでもこの気持ちは本物だ。
 ちくしょう。空は青く、宇宙船がまた降りてきていた。もうすぐ夏だった。







/短いかな。