英士、と初めて呼ぶと、驚いたように英士は目を見開いた。
 驚いた郭をわたしは初めて見たかもしれないな、と思って少し嬉しくなった。





「・・・どうしたの、急に」
「だめかな」
「いや、そんなことはないけど」



 郭は読んでいた雑誌を床に置いた。郭にしては、珍しいな。几帳面な性格だから、そのまま床に放るなんてこ
とは、あんまりしない。
「結人になんか言われたわけ?」
「ないとも言えないけど」
「やっぱり」
 そんなことだろうと思った、と郭は呆れた顔をした。多分、わたしにも結人にも呆れているんだろう。確かに、
郭の結人に対するイメージはそういうのなんだろうな。わたしと郭に、余計な茶々を入れるのが結人だ。




「でも、まだ思考の中では「郭」なんだよね」
「そのうちに慣れるんじゃない」
「なんかね、確かに結人に名前で呼べばって言われたのは事実だけど」



 郭、いや、英士の顔を見た。綺麗な顔。わたしは特に、英士の目許が好きだ。黒目がちで、その色が美しいっ
ていつも思う。わたしも、そういう目が欲しい、って何度思ったことか!でも、その時英士がわたしの目を羨まし
がるのかな?それは微妙な問題だ。



「わたしはずっと、名前で呼びたいと思ってたよ」
 英士がわたしのことを「」と呼ぶように。優しい響きで、柔らかく、そして温かく、呼びたいと思ってたよ。
 わたしが最上級の愛を捧げる郭の瞳が、微かに揺れた。
 




/固定ヒロインだと思います。