「英士と続いてんだよな、おまえ」
 結人が嫌味な台詞をなんてことないことのようにしゃべりながら、ポテチを口に運んだ。







「あんたね、しゃべってる最中に物を食べない、人のことをおまえって言わない」
「いて、叩くことねーじゃん」
「そんな強く叩いてませんー結人くんはそんなに弱虫なんですかー」
「くそ、むかつく。おまえは俺の母さんかっつーの」
「結人のお母さんほど、わたしは根性ありません」





 誰が、結人みたいなのを毎日毎日育てなきゃいけないのよ。この性格はしつけとかそういうものじゃないんだ
って、もう天性ってやつ、天性(幼稚園より前から付き合いのわたしが言うんだから、絶対なんだ!)!そういう意
味では結人のお母さんをわたしは心の底から尊敬する。ほんと、すごいと思います。





「これからも、英士と約束してんだろ」
「まあ、一応」
「英士と遊ぶときって、なにやってんの」
「なにって・・・別に、CD見に行ったり、映画観たり、ごはん食べたり、いろいろ」
「じゃなくて、英士の家で遊ぶ時ってなにやってんの」
「え?家で?別に、それもCD聴いたりDVD観たり、お菓子食べたり」
「ヤッてんの?」
「ばか」





 ほんと、これだから思春期の男の子って嫌だ。もうちょっと健全に物事を考えられないものか。
「英士って手早そうだから、ちゃんがもうオトナになっちゃったかと思って、結人心配しちゃった」
「ありがとね結人くん、そんな心配するようなことはなにもないわよ」
「ほんと、どっちからも情報掴めねえの、英士も同じようなこと言ってたぜ」
「・・・英士にも同じこと聞いたわけ?」
「あ、名前で呼ぶようになったんだ、よかったじゃん」
「まあお陰さまで、いろいろありまして」
「で、英士に聞いたかって?そりゃ聞いたよ、普通聞くだろ」
「・・・知らないけど、さ」





 英士はこれを聞いたとき、澄ました顔して答えたんだろうな。すぐ脳裏に浮かぶ。
 ―――ほんと、英士にも尊敬だ。わたしはこんなにも胸がどきどきしてるってのに。クールビューティーって
いうのは本当だ。冷静で、美しい。きっと澄ましてる英士に、結人はなにも言えなかったんだろうな。それもまた
想像できるよ。





 気心知れた人に物事を隠すのは簡単じゃない。特に、わたしにとって結人はそういう存在だ。幼稚園に入る
前からの付き合いの人間に、冷静に嘘を付くなんて、英士絡みのことじゃなかったら、わたしには無理だ。
 結人くん、きみの期待するようなことはもうとっくなんです、起きてるんです。ごめんなさい、もう君の言う
オトナになっちゃってるんです。でも、絶対言えない!






 わたしは心を静めるために、アイスココアを飲んだ。もうすぐ、英士との約束の時間だ。英士はまた、澄ました
顔してわたしを出迎えるんだろう。それで、妙に赤い顔したわたしを見て「なんかあったわけ?」とでも言うんだ。
 鞄を引っ掴んでこの部屋を出るまで、あと5分。





/ごめんなさいいろいろほんとごめんなさい