「英士、今日いくつもらったの?」
 え?と聞きなおすほど、俺は馬鹿じゃない。素直に「わからない」と言った。





「・・・彼女という立場のわたしから言うのもアレだけど、そういうの良くないよ」
「なにが?」
「そういう、折角のご好意を無下にするような行動」
「結人は?」
「あの人は、どうしても食べられないのだけうちに持ってくる」



 でも、結人はちゃんとお返ししてるし!とは力説する。それをなんだかな、と思いながら見た。するとその
視線に驚いたのか「な、なによ」とたじろいだ。
 口には出さないし、なにか言う訳じゃないけど、は可愛げがあると思う。性格に多少の難癖はあるものの
(これを言うと、絶対に「英士は人のこと言えないよ」って言い返してくるのが目に見える)、顔とか仕草とか、たま
に見せる涙でさえ、可愛げがある。




「別に、なにも」
「と、とにかく、お返しはしなさい。それが常識、礼儀」
「・・・誰に貰ったか、覚えてないんだけど」
「・・・じゃ、じゃあ、来年から!」
「そんなに、他の人にお返ししてほしいわけ?」
「・・・なんていうか、その」
にはちゃんと返すよ、たっぷり色をつけて」
「その響きの色はいらないんですけど」
「遠慮しなくても」
「遠慮しときます」
「んで、なんで?」
「へ?」
「俺が、他の人にお返しするのに、なんでそんなにこだわるわけ?」





 正直、義理だの本命だのお返しだの、こういう付属品な行事ほど面倒なものは無い。
 好きです、付き合ってください、ありがとう、ごめんなさい、この一連の流れの中で、駄目な時にもお返しがいる
のか。それって同情。俺なら絶対お断り。1ヶ月後、その間に失恋の痛みだって消えてるかもしれない。そんな時
にわざわざ思い出させるようなこと、する必要あるわけ?




「・・・から」
「え?」
「もし、わたしが英士と付き合えてなかったとして、それでお返し貰えなかったら嫌だなあって思ったから・・・」






 可愛げある?今のはそういうのじゃないでしょ。要するに、あんまりこの言葉は使いたいとは思わないけど。
「・・・馬鹿でしょ」









「お返し」
「え?」
「お返し、なにが欲しい?」
「・・・それって、普通隠してびっくりさせるものじゃないの」
「欲しいものは言わなきゃわからないでしょ」
「そりゃあそうだけどね」
「で?なに?」
「別に、なんでも」
 そう言ったの顔が、あまりにも幸せそうだったから、その頬に触れてみたら、思いのほか柔らかかった。
その感覚に、溺れてしまいそうだ。





/偽英士・・・!このシリーズの英士は灰色くらいに考えてちょうどいい感じです。