今まで気付かず過ごしていたけど、もう忘れられません、見て見ぬ振りもできません。 「真田一馬め、わたしはおまえが大嫌いだ」 「んなこと俺に言ってどうするんだっつの、一馬本人に言え、本人に」 「だって、そんなのわたしが、大好きだって告白してるようなものじゃない」 若菜は溜息をついて、「じゃあどうしたいんだよ」と呆れて笑った。 わたしにだって、ていうかわたしにはわからないよ、そんなこと。 溶けかけてきたスーパーカップ(バニラ味)を淵の方から木べらで掬う。 「さっさと告白してしまえ」 「無理ですわたしには無理です」 「・・・あーもう、あれだ、玉砕覚悟?ってやつでも言った方がすっきりするって」 「玉砕覚悟ができないから、言えない」 情けないでしょ、そうでしょ。 若菜と目を合わせないように、わたしはアイスを食べ続ける。段々と舌が冷たさで痛くなる。 甘さと痛みが口の中で溶けて広がって、わたしはその感覚があまり好きじゃない。 「若菜、ごめんね」 「いいって別に。なんかおまえ見てると面白いし」 「最悪」 「まあ今のは半分冗談だけど」 「(半分かい)」 「一馬も、幸せモンだよなあ、こんなにおまえに好かれてるなんてさ、あいつ知ったらどんな顔するんだろな」 だって想像できるのだ。一馬が困る顔。ごめんって言いたいのに、言えない顔。 それを想像するだけで、わたしは胸が痛む。ごめん、こっちがごめん、って言いたくなる。 それもこれも全て、わたしが一馬を好きだから、一馬を苦しめているのだ。 わたしは一馬に傷付いてほしくない。 というのは建前で、ほんとはわたしが傷付きたくないだけなのかもしれない。 わたしはわたしに甘い。一馬にも甘い。だけど、やっぱりわたし自身に一番甘い。 (好きなだけで傷付けてるなんて、痛すぎる) わたしは弱くて愚かで惨めで情けない。 気持ちのひとつも伝えられやしない。余計なことはいくらでも言えるのに、真実はなにひとつ口に出せない。 恋をすると、臆病になる。わたしはそれが驚くほど顕著だった。 「まあ、少しくらいは応援してやるよ」 「少しと言わず、存分にどうぞ」 「・・・ま、俺が応援っつったって、なんもできねえけどさ」 「・・・そうかな」 「そうだろ」 わたしがそこにいることで、一馬になにをしてあげられるんだろう。 わたしがそばにいることで、一馬にどれだけ迷惑をかけたんだろう。 わたしがよこにいることで、一馬は幸せな気分になれるんだろうか? そう考えていくと、この感情がすべて独りよがりだったんだと気付かされて、泣きたくなる。 だいすきです。すきですきで仕方ないほどすきです。 それでも、わたしは多分、いつまで経ってもそれを言えないでしょう。心にしまい込むでしょう。 そしたら、この気持ちはいつか消えてしまうのかな。見えているのに、見えなくなってしまうのかな。 感じる痛みも軋みも、一馬の笑顔も消えちゃうのかなあ。 それはすごく嫌で、でもそれ以上に狡い気がした。 でも、そうしてしまう自分がいるような気がして、吐き気がした。 ちくしょう、情けない。だいすきだ。 /こんだけ好き好き言ってるお話も、久し振りに書きました。 |