水谷はあの子が好きだという。
 あの子は阿部が好きだという。
 わたしは水谷が好きだという。









「なあなあ、聞けって!」
「・・・なにをですか水谷くん」
「また、話し掛けられちゃったよ俺!」








 水谷は、感情をそのまま表情に変える。
 予習していなかった英語の訳が当たった時、水谷はあからさまに慌てた。
 机の角に脇腹をぶつけた時、あからさまに痛がった。
 そして、今、あからさまに嬉しそうだ。







 (きっと、こういうところが、阿部にアホって言われる所以なんだろうな)












「・・・で、今回はなんて言われたの」
「「野球部っていつも何時に終わるの?」だってさ!」
「・・・ふうん」






 きっと、あの子の意図は、水谷が思うこととは全然違うんだと思うよ。
 (あの子が知りたかったのは多分、阿部のことなんだよ)
 それを知ってて、言わないわたしは、酷い人かもしれない。







 水谷はあの子が好きだという。
 あの子は阿部が好きだという。
 わたしは水谷が好きだという。
 この関係を知っているのは、わたしだけだ。
 ・・・自分のことしか考えてないように聞こえるかもしれないけど、辛いのは、わたしだ。







 あの子が水谷を好きなら、それもそれでわたしは辛い思いをするんだろう。
 でも、水谷が片思いで、嬉しそうな顔をしていても、わたしは辛い。
 つまるところ、わたしは水谷がわたしのことで嬉しそうな顔をしないと、辛い。







 でも、わたしはこの関係がどうしようもないことを、知っている。
 水谷はわたしのことを好きにはならない。
 あの子は水谷のことを好きにはならない。
 わたしは水谷のことを諦められない。






 きっと、これからもどうしようもない。
 わたしはずっと、わたしを含めたこの不毛な恋愛関係を見ていくことになる。
 心が潰れちゃいそうなくらい切ないんだけど、恋心はそう簡単には潰れない。









「・・・で、水谷は告白とかしないの」
「・・・あー、まあ、なんてか、踏ん切りがつかないってか」
「・・・ふーん」
「・・・なんなんだよ、自分から聞いといて」
「いや別に」







 わたしは数学の教科書に目を通すふりをした。
 教室の片隅で、わたしは泣きそうになってるのに、あの子の笑い声が聞こえてきて、また水谷は笑った。
 ちくしょう、だいすきだ。わたしは、水谷が。水谷は、あの子が。






/なんでこういう話しか書けないかな。