知らないよ、って言えれば簡単なことはわかってるけど。
自販で買ってきた林檎ジュースを差し出すと、水谷はサンキュ、と弱弱しく笑った。
「別に、どうってことないよ」
「いや、なんか悪いなと思って」
だったら、そんな風に笑わなければいいのに、と心の隅で思った。
(わたしはそんな笑顔が見たくて水谷のそばにいるんじゃあないっていうのに)
振られた。誰って、水谷が、あの子に。
わたしはそれを聞いたとき、ただ驚くだけだった。悲しいとか嬉しいとか、そういう感情を持たなかった。
わたしは、水谷のことが好き。そのことだけが、頭に残った。
チャンス、なんて思えなかった。話を聞いてる今でさえも、そう思えなかった。
今まで、心のどこかでこういうことを望んでいたかもしれないのに。最低、と自分に嫌悪する。
水谷が振られた、というのも、間接的にだった。
あの子に恋愛相談をされたということだ。相手は、阿部。
それを前から知っていたわたしと、それを知らなかった水谷とじゃ、気持ちの整理が違うんだろう。
「なんていうか、俺馬鹿じゃん、って感じ」
「・・・そんなことないよ」
「告白も、してなくて、勝手に振られて、みたいな」
「別に、水谷は悪いことしてないじゃん」
「それは、そうだけど」
あーあ、と水谷は呟いて俯いた。わたしは、その姿に泣きたくなった。
水谷は、落ち込まない方がいい。そのほうがわたしは嬉しい。
水谷は、いつも笑ってればいい。あの子のことでも、毎日笑ってくれてればいいよ。
(そんなの、わがままだってわかってる)(それでも、でも、わたしは)
告白もしてなくて勝手に振られたのは、わたしだ。
水谷が辛いように、わたしも辛い。だけどそれをどうやって発散すればいいのか、私は知らない。
泣けばいい?嫌って喚けばいい?水谷の後ろ姿に縋ればいいの?
だけど、それを水谷だって知らない。だから、わたしが話を聞けばいい。それで、少しでも水谷の気持ちが
よくなればいい。そして、また水谷は笑えばいい。それだけで、それ以上は求めないよ。
水谷が溜息を吐く。その横で、わたしはなにも言えない。でも、きっと、誰かが隣にいるだけでも、水谷は少し
楽になれるんだろうと思う。だから、いる。笑うまで、横にいるよ。
わたしが好きでいるように、水谷はあの子のことが好きなんだ。当たり前のことを思いながら、わたしは自分用
に買った水谷と同じ林檎ジュースを飲んだ。焼けるような甘さが、喉を掠めてからだのなかに溶けていった。
/続編。こういう恋。