「わたし、鳳がこんな人間だったなんて、知らなかった」
 それはどうも。









「その言い方、失礼じゃない?」
「だって、実際問題そうなんだもん」





 は口をとがらせて、ぶつぶつとなにか文句を言った。困ったな、と思う。なににって、のかわいさに。
 大体、は俺のことをどうやら勘違いしている気があると思っていた。

 俺はの手首を掴んで引き寄せた。なにすんの、って尖がった声で俺をたしなめるけど、あんまり効果は
ないってことにも、は気付いてない。





「わたしのイメージしてた鳳は」
 そこでは言葉を切って、俺の目を見据えた。そういえば、今日から目を合わせてきてくれたのは
初めてかもしれない。





「大人っぽい人が好みで」
「別にそんなこと言った覚えはないけど」
「すごく紳士的で」
「それは今も変わらないと思うし」
「なによりも、すごく優しくて、言いたいこともなかなか言えない謙虚深い人で」
「それもあながち間違ってないんじゃない」
「だって、同学年なのに敬語交じりのしゃべりかただったら、そう思うのも当たり前じゃない!」
「だから、それは単なる先入観ってやつってわけだったってことで」




 だから、キスしてもいい? と尋ねると「だからそれとこれとは話が違う!」と叫んだ。かわいいなあ、と思って
思わず抱き締めてしまった。腕の中で暴れてるみたいだけど、それだって愛しく思える。




 もう我慢できないって。俺が壊れるか、が壊れるかどっちかしかなくなる。だったら2人ともいい気持ちに
なって大円満でいいじゃないか。それがベストだと思うけど。こうやって俺が迫るのだって、双方の利益を考えて
当然のことじゃないか。





 が勘違いしているのは、俺自身のこともあるけど、自分自身のこともある。の場合、不意に自分に
自信がないオーラが出る時がある。例えば、こうやって今、とか。俺のことをさんざん言った後、一番後悔して
いるのは、なんだ。ほら、すぐに俯いた。


 俺の好みのタイプが、大人っぽい人間だというのは、の憶測でしかないのに。それなのに、はそれを
考え込んで落ち込む。そんなこと、これっぽっちも思う必要ないのに。


 別に俺は思慮深い大人っぽい人が好みというわけでもなくて、だからといってなにもわからないような子が
タイプというわけでもない。どちらかっていえば自惚れる訳じゃないけど女の子には紳士的に振舞うようにして
いるつもりだし、わがままだって極力言わないようにしてる。




 そういう気遣いに気付かなくても、俺は目の前のが大好きなのだけれど。
 が好きなんだ。誰でもなく、が。それでいいじゃないか。俺が好きだと言う。それがなによりの自信に
なったとしてもいいはずなのに。俺は、が俺のことを好きだと言ってくれて、笑ってくれればそれだけでなん
だってできるような気にさえなれるのに。にもそう思ってほしいのに。俺と同じ場所に来てほしい。

 、脳内にいる「想像」の俺じゃなくて、ここにいる俺に、意識を集中させてくれ。お願いだから。





、目、閉じて」
「ちょ、ちょっと、」




 鳳、と名前を呼ぶ前に口を塞いでしまった。ほら、こんなにいいものだっていうのに、なんでは拒むんだ。













「侑士、見た?」
「ばっちり見たで」
「……鳳、なにやってんだよ」
さんやったっけ? 彼女さんも可哀想やなあ、こんな人通りのあるところで、あんなん」
「あ、引っ叩かれた」
「まあ、自業自得っちゅーことやな」






/こんなオチかよ! わたし、こういう話、センスないな・・・/30「ここまでおいで」