男の友達がいる
恋愛にはならない二人








 夜中に携帯が鳴ることは、大学に入って1人暮らしを始めてから増えたことの一つだ。深夜に家を抜けたところで、家族に迷惑をかけることもない。いつ食事をしたって構わないと気付くと、食事をすることが面倒になり摂取しないことが増えた。それを気にしてくれる友人というのもいるもので、たまに食事に誘ってくれる。その内の1人が、現在わたしが着信を受けている千石だったりする。


「よーっす」
「…俺は別にいいんだけど、そのかっこうで出歩くのはどうなの?」


 なによ、これはユニクロで買ったチョッパーTシャツよ。自慢げに見せると「そっちじゃなくて、その中学のジャージの方」と指さされた。あ、そっちね。何度も見てるじゃない。

 千石とは、中学高校と同じで、そのまま附属の大学に上がったので大学まで、しかも学部まで一緒である。もともと腐れ縁だったけどそれがまた一因となって、深夜に駅前のガストでかなり遅い夕飯を食べたりする関係となった。千石も1人暮らしで、お互い自炊するタイプじゃないことも、居酒屋に行くお金がないこともわかっている。因っていつも場所はガストだ。そんな深夜におしゃれする元気はない。だから実家からの愛用品中学ジャージだ。

 つまりは、千石とわたしはそれが許される関係なのだ。


「そういえばさ、この前の地誌学、出た?」
「出たよ、ていうか千石あれ出てなすぎ」
「うーん、出席取らないって思うとどうもねー」

 「あはは、っていうことでヨロシク」なんて都合がいい。もちろん今日は奢ってくれるんだろうから、遠慮なくデザートまで食べてやる。そう思ってメニューを開く。千石は既に決めてたみたい。ていうか、まあどうせいつものハンバーグだろう。

 目星がついたところで、ベルを押して店員さんを呼ぶ。いつものポニーテールのお姉さんだ。可愛いねえっていつも千石と話していた。まあぶっきらぼうなのがたまにキズだけど、深夜0時に働いてるんだからそうならざるを得ないだろう。注文を終えてから、千石の分のドリンクバーまで取りに行く。これがいつもの決定事項で、2杯目は千石が取りに行くと決まっている。だって、連れ添ってドリンクバーを取りに行くのってなんか間抜けだし、非効率的だし、そもそもわたしたちっぽくない。


 席に戻ると、千石が携帯をいじっていた。こんな時間にメールするなんて、本当にマメな男だと思う。わたしだったら寝ているだろうし、起きていたって面倒で返さないだろう。


「こんな時間までメールですか」


 こういうやつがいるから女子がメールを返さないとなにかと言われる世の中なのだ。男は黙ってメールなんて面倒だと思ってればいいのに。そんな皮肉をこめて問いかけた。

 少しはにかんだかと思ったら、千石は「彼女出来たんだよね」と言った。
 心底嬉しそうな声を出して。


 誘われる場所はいつも駅前のガスト。頼むものだって大体分かる。ドリンクバーの1杯目だって2杯目だって持ってきてあげられる。前の彼女の顔もその前もわかるし、千石だってわたしがこの前こっぴどく振られたことを知っている。つまりはそういう距離。


 だけど、ね。
 たったそれだけなんですよね。

 切ないのか、と問われるとなんだか違うような気がする。じゃあ嬉しいのか、と言えばそれは話が違う。じゃあなんだって言われたら、なんだとは言えない。
 じゃあ、わたしと千石の関係はなんだって言うの。


 すごく近いところにいることは確実。
 それならば、恋人が出来たことを祝福出来ない距離っていうのは、遠いのかしら?


 恋心がなかったはずなのに、そうやって嬉しそうな顔されちゃうと、なんだか寂しいじゃないの。ストローでカルピスをすすって喉を潤してから「おめでとう」って言ったけど、口の中はカラッカラだった。そんなこと、多分一生千石には言えないんだけど。




/わたしの大好きなアイドルグループの歌から。