・わたしと千石は、ただのクラスメイト
 ・千石は、女の子が好き
 ・わたしは女の子
 ・女の子はわたしのクラスにたくさんいる









 いろいろとぐだぐだ考えてみたけど、結局解ったのはわたしと千石は大した関係じゃないってこと。
 そんなのは考える前から解ってるのに、わたしは何回も条件を思い浮かべて考える。
 答えなんて、変化する訳じゃないのに、わたしは何回も考える。








 千石は、優しい。
 千石は、かっこいい。
 千石は、性格に難があるけど、そこだってそれなりにいい。
 でも、それはわたしだけに向けられてるものじゃない。
 それが、ひどく虚しくて苦しくて切ないんだ。








「あれ、さん」
「・・・え、わたし?」
「多分、俺の知る限り、さんはひとりしかいないけど?」





 からからと笑って、千石は「面白いよね、ほんと」と言った。
 誉め言葉として受け取っていいのか、どうなのか微妙。






「誉められてるのか、わかんないよ」
「あ、一応誉めたつもり」
「(一応って・・・)」






 千石は笑顔を絶やさない。ファンサービスは日常から忘れない。
 マックの店員にもすぐなれるよ!でも、千石がマックの店員になったらなったでいろいろ大変なんだろな。
 絶対、ハンバーガーひとつなんて頼めない(でもそれは私だけじゃないと思う)。








「で、なに、千石」
「ん、あ、そうそう、さんさあ」







 そう言って、千石は自分の前髪を指差す。
 その仕草だけで、わたしはなにを表しているかはっきりわかった。
 千石は、「なかなか似合ってると思うよ」と笑顔のまま言った。







 ああちくしょう。こういうところがずるい。
 ミワちゃんもヨーコも全員気付かなかったのに、なんで千石は気付くの。
 昨日よりも少し短くなった前髪。自分的には失敗かな、なんて凹んでたのに。
 (期待しちゃうよ)(期待するだけ無駄だってわかってるのに)








 だってきっとそうだ。
 千石は、わたし以外の女の子にもこういう風にしてる。
 目敏い千石は、誰が髪を切っても、気づくんだろう。そしてその度、笑顔で「似合ってる」って言うんだ。
 期待を持たせるのが上手い。そのくせ、裏切るのだって上手い。
 そういうことも、全部全部わかってるのに、わたしは浮かれてしまうんだ。
 (期待してもいいの?)(みんなそう思ってるんでしょ?)










 わたし以外にも女の子はいっぱいいて、千石は女の子がだいすきで
 わたし以外にも、千石は優しくて わたし以外にも千石を好きな子はいて











 千石が、他に本命を見つけたとしても、それはいや。
 でも、千石が本命以外の女の子にも、気持ちを振りまくようなことは、更にいや。
 それはわたしのわがまま?彼女でもないのに、こんなことを思うのは罪ですか?








 嬉しさ半分、切なさ半分、あと、少しだけやり切れなさで、心は溢れる。
 どうしようもないのに、わたしはまた千石にときめかせられるんだろう。
 どうしようもないのに、千石はわたしに期待を持たせるんだろう。
 きっとこれは、わたしが千石を好きな限り、ずっと続く。







 千石が去った後、前髪の当たる額がやけに気になった。
 これからも、きっと前髪を切る度に、わたしは千石のことを思い出すんだ。







/千石は久し振り。