不機嫌な理由を尋ねられることほど、不機嫌になることもないと思う。
「だから、どうしたんですかって聞いてるでしょう」
「だからどうもこうもないんだってば」
それで、相手も不機嫌になってしまうことくらい、わかっているのだ。
べつになにかがあったわけではなくて。
いつもどおりのことが行われていただけだ。クラスどころか学年も違うわたしが、椿のクラスメイトなど把握しているわけでもない。そもそも、椿がクラスでどんな活動をしているかなんて、把握しているわけもない。
だから、こんなことは、日常茶飯事なのだ。
わかっちゃいるけど、さあ。
自分の爪を見つめながら、椿の言葉に適当に返事をしていただけだ。それなのに、「そうやって先輩が爪を触ってる時って、怒っている時でしょう」なんて言い当てる椿は、デリカシーがないと思う。というか直線的だ。だから、自分でなんとかしようとしたもやもやを具現化されてしまう。はい、それをどうしますか、と言われているような気分になる。最初から、自分でどうにかするつもりだったのだ。そう言い返すほど、ばかではないけど。
「なんなんですか、気になるでしょう」
「だからなんでもないよ」
「本当ですか」
「ほんとほんと」
まったくもって信用していない目線だ。なんでこういうところは直線的でないのかなあ。なんでもないと言ったらここで終わりにしてほしいのだ。椿のことは、ほんとうにだいすきだけれど、こういうときにうんざりしてしまう。マルかバツかをはっきりさせないと気が済まない人なのだ。そういうところを愛おしいと思っていたのだけども。
「言いたいことがあるならはっきり言ってください」
「そうだねえ、言いたいことねえ」
「やっぱりあるんじゃないですか」
「強いて言うならさ、」
「はい」
「わたしがやっぱり椿が大好きだってことだよ」
例えばの話。
わたしがいまここで泣いて叫んで世の中の不平を訴えたところで、いったいなにが変わろうか? 悪いのは、おかしなことをしているわたしなのだろうか? 誰のせいにもしちゃいけなくて、ひとりよがりになってもいけなくて、じゃあいったいどこでわたしは、このやりきれない思いを消化すればいいのだろう?
だって、わたしは、もうすぐ、椿よりも先にこの学校を去るのだからして。
それを、マルかバツか、なんて椿に考えさせたくはないよ。
わたしはばかだ。でも、思っているよりもばかではない。
「そんなの、僕もだって」
「そうなのよ、だから、両想いってことでいいじゃない」
「…なんだかはぐらかされたような気がするんですが」
そうよ、はぐらかしたの。
こうやってはぐらかして、すりかえて、目を逸らすしかないじゃないのよ。
気安くわかった素振りを見せないで。わたしを容易く扱って。
いま、この場で、笑ってわたしの手を取ってくれやしないか。
/椿くんいいよね。だいすき。久しぶりすぎて書き方忘れた。