バーバリーのキャラメルのマフラーを愛用しているの雰囲気でいえばネイビーなんかを好みそうだけど、かれこれ2年は着用しているところを見ると、なかなかに気に入っているらしい。寒そうに頬を赤くして、僕の後を追ってくる。


「ねえ、翼ってば」
「なんだよ」
「なんだよじゃなくて、どこに行くのよ」


 答えを返さずに歩き続けると、「ちょっと!」と声を荒げる。うるさいな、少しは静かにしてくれないか。そう思ったけど、そういうとこいつは多大な勘違いをするから、なにを言ってやらない。こういうところを、中学の頃からの後輩は、意地が悪いな、と笑う。余計なお世話だ。


 季節は冬。冬は寒いけれどサッカーの季節だとは思う。毎年一番そう実感するのはこの季節だ。夏よりも、自分の体は熱くなるように感じる。そんなことを言うと、は笑う。第一に、はどうにも国立よりも甲子園に興味がある節がある。それに俺が気付いてることも、こいつは絶対知らないんだろうけど。鈍感だ。吐く息の白さ。いつの間にか冬は来る。



「ていうか、今日練習ないの?」
「あったら俺がここにいるはずないと思わないの?」



 そう言い返すと、は黙り込む。あ、これちょっと馬鹿にし過ぎた? 「今日は休み。グランドが雪で使えないから」と付け足す。それでも、は黙ったままだ。はあ、もうこいつ、ほんとめんどくさい。俺は愚鈍な人間があまり好きじゃないはずなのに。



「なに、俺と一緒に歩くのが、そんなに嫌だってわけ?」
「そういうんじゃないけど!」
「じゃあなんだって言うんだよ」
「……ただ珍しいなって思っただけ」



 言葉で言わなきゃ、なにもわからないってわけじゃないだろう。
 こいつもいい加減学べばいい。俺は多弁と呼ばれるけれど、それ以上に思考は複雑であるということ。感情直下の人間ではないこと。本当に大切なことを、素直に言えてないってことも。もう2年も一緒にいるのに、まだわからないのか。それとも、こいつの中ではまだ2年なのか。




「ほら、お前歩くの遅い」




 俺はどうでもいい人間のために、わざわざ寒い中外になんかでないし、歩く速度を緩めたりしないし、わざわざ手を繋いで歩くなんてまどろっこしいこともしないし、いちいち相手が傷つかないかどうか考えながら考えて言葉を発したりしない。同じ高校になんか入らないし、勉強だって見てやらない。変な男が付き纏わないように目を光らせることもない。どうでもいいようなことでも逐一メールしてくるお前に、付き合ってなんかやらないよ、本当に嫌いで、どうでもいいんだったら。それを俺は2年も続けてるってことに気がつけよ。


 自分の考えと違うにイライラしながらも、俺はを気にしている。
 そんな自分にもイライラする。


 ほんと、柾輝もケーキバイキングのチケットなんかくれなきゃいいんだよ。
 そんなの貰ったら、こいつを連れてく以外に選択ないじゃんか。そんなとこに入る俺の気持ちも考えてみろよ。


 だから、それってそういうことだろう。いい加減頭使えよ、馬鹿。


 誰に言われるでもなく、俺は俺なりにのことを考えている。
 だから、とりあえず黙って今はこっちに来てくれ。




/椎名様。すごい好きよーなんかもうたまらんよね/密やかな毒に君の影を見る