「仮に、ここからここまでの線があるとしよう」 柳はそう言って、わたしと柳を分割するように指で線のある場所を示した。 「これを、は越えようとしてくる」 柳の指が、仮想線上を飛び越える。わたしはうん、と頷く。それにしても、柳の指は綺麗だ。テニスやってるの かな、ほんとにこの人。なんて無駄なことを考えていたら「聞いているか?」と言われてしまった。なにもかもお見 通しなのだ、この人には。 「聴いてます聴いてます。拝聴させて頂いてます」 「・・・ま、いいが、それで、俺はを受け止めるか否かで迷っているわけだ」 「なんで?」 「俺にもいろいろある、じゃ駄目か?」 「駄目だね、答えになってない」 わたしはいつも、こうやって柳を困らせようとする。困ることはわかっているのに、わたしは柳を苦しめるような 質問をする。柳は頭がいいから、いつかわたしの納得できるような答えをくれるんじゃないか、と期待しちゃうか らだ。だって、いつも柳はわたしが思いつかないようなことを言う。 「俺だって、人を好きになったことはある」 「・・・うん」 「確かに、は好きだ。けれど、今までのソレとは少し違う。だから戸惑っている」 「戸惑ってるんだ」 「ああ、そうだな、予想外というやつだったから」 わたしでも、柳の予想外になるようなことができるんだな、とふと思った。柳は全ての可能性を考えているわけ じゃないんだ(あ、わたしは恋愛対象として見られてなかったってことか)(それもそれでちょっと)。 「じゃあ、柳はわたしを振る?」 「それで、困っている」 「なんで?」 「今までのソレとは違うが、が他の男と歩く所なんか見たいとは思わないからだ」 なんて都合のいいことを言ってるんだ!と思ったけど、柳の表情は真剣そのもので、口調だって全然冗談じゃ なくて、ああ、この人ほんとに今までこういうことなかったんだな、と思った。1番の女友達から告白されるとか、 そういうのなかったんだなあ。人の変化には目敏いくせに、人の恋愛事情には詳しいくせに、自分のことになる とてんで駄目なのか、この人。 「じゃあ、付き合ってよ」 「そう言われると更に困るな」 なにを困ることがあるのさ。わたしは柳が迷ってることも困ってることも知ってるよ。ずるい人間だから、告白し たんだ。柳が困るってわかってて告白した。最低だって罵ればいいのに、柳はそれをしない。ちゃんと断ってくれ ればわたしだって諦めるよ。なのに、柳は。 (これじゃ、残酷だ) 仮想線は、未だ引かれたままだ。飛び越えようにも飛び越えられない。早く、早く。 /初柳。 |